日本語特化の埋め込みモデルが、英語モデルに負けた|自分のVaultで6モデルを実測した

日本語特化の埋め込みモデルが、英語モデルに負けた|自分のVaultで6モデルを実測した

日本語の検索なら日本語特化の埋め込みモデルが一番。そう信じて選んだモデルが、実は最下位級だったとしたらどうするだろうか。

この記事では、自分のObsidian Vault(622ファイル)で6つの埋め込みモデルを実測し、公開ベンチマークの下調べとは逆の結果になった経緯を記録します。

日本語のドキュメントを検索するなら、日本語特化の埋め込みモデルを使うのが当然だと思っていた。ベンチマークでも評価が高い。ライセンスも問題ない。選ばない理由がなかった。

実際に自分のナレッジベースで測ってみたら、最下位級だった。英語向けに最適化された汎用モデルに、はっきり負けた。

この記事は、その実測の記録である。結論だけ先に書くと、借り物のベンチマークでモデルを決めてはいけない。それが本当に自分の用途を測っているか、確認する手段は実際に測ることしかない。

notebook desk work laptop phone

目次

きっかけ:Vaultが肥大化して検索が効かなくなった

Obsidianで600ページほどのナレッジベースを運用している。LLMに読ませて質問に答えさせる使い方をしているのだが、ページ数が増えるにつれて「関連しそうなページを探す」段階そのものが重くなってきた。

タイトルや要約だけの索引では意味的に近い内容を取りこぼす。かといって全文grepは表記ゆれや言い換えに弱い。「あの話、どこかに書いたはずなんだけど」が見つからない状態が増えてきた。

そこで埋め込みによる意味検索の層を足すことにした。ローカルで、無料で、データを外に出さずに。埋め込みによる意味検索の仕組み自体は、以下の記事でチャンク分割・ベクトルDBまで含めて解説している。

下調べの結論:日本語ならruri-v3

事前に調べた範囲では、答えははっきりしていた。

ruri-v3(名古屋大学cl-nagoya)が日本語埋め込みの第一候補。ModernBERT-Jaベースで、Apache-2.0だから商用利用も問題ない。日本語RAGの実測ベンチマーク記事では、精度最上位のGemini Embedding-001(API・有料枠)に対してP@1で0.555 vs 0.588と僅差まで迫っている。しかもローカル実行なのでレイテンシは0.1〜0.2ms、APIの324〜380msより2桁速い。

多言語も必要ならbge-m3。100言語以上に対応し、密+疎のハイブリッド検索ができる「多言語RAGの事実上の標準」とされている。

ここまでは、記事を読んで整理しただけの話だ。悪くない下調べのつもりだった。実際、以下の記事でも同じ下調べに基づいてruri-v3を第一候補として推している。

実測したら順位がひっくり返った

検索基盤にはqmdを使った。Markdown向けのローカル検索ツールで、BM25とベクタ検索を組み合わせられる。埋め込みモデルは設定ファイルで差し替えられるので、同じコーパス・同じクエリで複数モデルを比較できる。

条件はこうだ。

  • 対象:自分のVaultのKnowledge/配下、622ファイル
  • 評価:言い換えクエリ12問。正解ページの語彙をわざと避けて作った(例:「有料記事を売ったとき手元にいくら残るのか」→ note手数料のページ)
  • ドメイン:育児・収益・ガジェット・学習法・PKM・投資の6分野に分散
  • 量子化:全モデルQ8_0に統一
  • 指標:P@1 / P@3 / P@5 / MRR

結果がこれである。

6モデルのP@3スコア比較。Qwen3-Embedding-0.6Bとmultilingual-e5-largeが0.833で並び、embeddinggemma-300Mが0.750、ruri-v3-310mが0.500、bge-m3が0.333、ruri-v3-30mが0.167で最下位

モデル 次元 埋め込み時間 P@1 P@3 P@5 MRR
Qwen3-Embedding-0.6B 1024 18分52秒 0.667 0.833 0.917 0.771
multilingual-e5-large 1024 12分45秒 0.667 0.833 0.833 0.736
embeddinggemma-300M 768 4分03秒 0.583 0.750 0.750 0.681
ruri-v3-310m 768 5分01秒 0.250 0.500 0.833 0.458
bge-m3 1024 16分00秒 0.167 0.333 0.417 0.263
ruri-v3-30m 256 43秒 0.167 0.167 0.167 0.191

日本語特化のruri-v3-310mはP@3が0.500。qmdの既定モデルであるembeddinggemma-300M(Google製・英語最適化)の0.750に、明確に負けている。小さい方のruri-v3-30mに至っては0.167で全体最下位だ。

そして「多言語RAGの事実上の標準」と紹介されていたbge-m3も0.333と振るわなかった。

勝ったのはQwen3-Embedding-0.6B。多言語汎用モデルで、日本語特化ではない。

あたま

正直、この結果には自分でも驚きました。日本語特化モデルが専用ベンチマークで示していた強さと、自分のVaultでの実測がここまで乖離するとは思っていなかったので。

なぜ下調べと結果がズレたのか

自分の下調べが間違っていたわけではない。参照した記事の数値は正しいのだろう。ズレたのは、測っている課題が違ったからだ。

参照したベンチマークは、専用のQAデータセット2000問に対する検索タスクだった。質問と、それに答える文書のペアがあらかじめ用意されている。一方、自分がやりたいのは雑多なテーマが混在する実際のナレッジベースを横断して、うろ覚えの言い換えで目的のページに辿り着くことだ。

前者で強いことは、後者で強いことを保証しない。文書の粒度も、ドメインの多様性も、クエリの性質も違う。

さらに決定的だったのは、Qwen3-Embeddingがそのベンチマークの対象外だったことだ。比較表に載っていないモデルは、どれだけ優秀でも選択肢に上がらない。自分は「載っている中での最良」を「全体の最良」だと思い込んでいた。

これは埋め込みモデルに限った話ではない。ベンチマークを読むときは、それが自分の課題と同じものを測っているかと、自分が検討したい候補がそもそも含まれているかの2点を確認する必要がある。

実測の途中では、もう一つ別の問題も見つかった。qmdが謳っているBM25(語彙検索)とベクタ検索のハイブリッドが、同じ12問で測ると全問圏外(P@1〜P@5すべて0.000)だったのだ。原因はunicode61トークナイザが日本語を単語分割できないという、埋め込みモデルの精度とは別種の落とし穴だった。この副産物は切り口が異なる(モデル選びではなく全文検索の設定の話)ため、原因と対処法は別記事にまとめてある。

この結果を鵜呑みにしないでほしい

正直に書いておくと、この実測には弱いところがある。

  • 12問は少ない:1問の当たり外れでP@3が0.083動く。順位の大枠は読めても、上位2つ(Qwen3とe5-large)のどちらが上かを断言できる精度はない
  • クエリを作ったのは自分だ:正解ページの内容を知った上で言い換えを作っているので、実際の検索意図の分布とは違う可能性がある
  • ruri-v3が不利になった要因も考えられる:qmdのチャンク分割は約900トークン目標で、これがruri-v3の想定と合っていないかもしれない。またruri-v3は検索用途で「検索文書: 」と「検索クエリ: 」というprefixを付けることが求められているが、qmdは2つのモデルファミリしか判別しないため、そのままではこのprefixが付かない。10行ほどのパッチを当てて対応した上での数値だが、連結の仕方が最適だったかは検証していない

だから「ruri-v3は悪いモデル」ではない。「この用途・この構成では上位に来なかった」というだけの話だ。

それでも言えること

留保を並べた上で、それでも残る教訓はある。

  • 自分のコーパスで測るのは、思ったより安い:モデルを差し替えて再インデックスする作業は、600ページ規模なら数分から20分程度で終わる。評価用のクエリを12問作るのも1時間かからない。それで「下調べの第一候補が実は最下位級だった」と分かるなら、割に合う
  • 速度と精度のトレードオフも見える:embeddinggemma-300Mは最良モデルの4.7倍速く(4分 vs 19分)、P@3の差は0.083しかない。頻繁に再インデックスする運用なら、こちらが合理的な選択になりうる
  • そして、定説は定説として疑える:「日本語なら日本語特化モデル」も「bge-m3は多言語の標準」も、一般論としては正しいのだろう。ただそれが自分の用途に当てはまるかは別問題で、確かめる手段は実測しかない

同じようにローカルRAGを組もうとしている人がいたら、下調べで決め打ちせず、候補を3つくらい残したまま自分のデータで測ることをおすすめしたい。20分で順位がひっくり返るかもしれない。

→ このブログを書いている人について

関連記事


出典(2026年8月時点で確認)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
個別のご相談を受け付けています

生成AI活用やナレッジ基盤づくりについて、実務経験をもとに個別のご相談を承っています。ご興味があれば覗いてみてください。

note.comでは、実際の構築事例をより詳しく書いた有料記事も公開しています。→ 有料記事のご紹介を見る

この記事を書いた人

本業で生成AIの活用法を研究し、実装・社内への導入推進を担当。属人化しがちなノウハウをどう言語化し、チームの資産にするかに関心があります。このラボでは、ナレッジ・生成AIツール・実践ワークフロー・データサイエンスの4領域で検証したことを記録しています。姉妹サイト「なないろ日和」では育児や暮らしについても書いています。

コメント

コメントする

目次