総務・庶務の属人化はなぜ根深いのか?「あの人に聞けばすぐ進む」の裏にある構造

総務・庶務の属人化はなぜ根深いのか?「あの人に聞けばすぐ進む」の裏にある構造

総務・庶務の担当者が変わった途端、同じ手続きなのに何日も止まる。前任者に聞けば5分で終わったはずのことが、誰にも分からない。心当たりはないだろうか。

この記事では、なぜ総務・庶務の業務が特に属人化しやすいのかを構造から整理し、それが実は「組織のナレッジがサイロ化する」現象と同じ根を持つことを示す。

  • 総務・庶務の属人化が、他の業務よりも根深くなりやすい理由
  • 「裏技的なノウハウ」がそもそもマニュアル化の対象外になる構造
  • これが個人の問題ではなく「知識のサイロ化」という構造的現象であること
目次

総務・庶務の属人化が、特に根深くなりやすい理由

「属人化はどの部署でも起きる」という一般論はよく語られる。しかし総務・庶務の現場では、その根深さが一段違うと感じている担当者は多いのではないだろうか。

属人化の一般的な要因が、総務業務ではどう現れるかを4パターンで対応させた図。業務範囲が広い→経理・法務・庶務・備品管理など一人が多領域を兼務し引き継ぎ範囲が肥大化する、非定型判断が多い→業者ごと・申請ごとのケースバイケースの勘所、引き継ぎ時間が確保されない→退職・異動直前にまとめようとして時間切れになる、『裏技』は書く発想にならない→正式な手順ではないという理由でそもそも文書化の対象外になりやすい。

属人化そのものが起きる一般的な要因(業務範囲の広さ、育成コストの負担、時間的余裕の欠如、非言語的な伝承文化など)は、姉妹記事「属人化はなぜ起きる?」で4層に整理した。総務・庶務の現場では、この一般要因が次のような形で強く現れる。

  1. 業務範囲が異様に広い:経理・法務・庶務・備品管理・契約更新・来客対応……一人あるいは少人数が多領域を兼務するため、引き継ぐべき範囲そのものが肥大化しやすい
  2. 非定型判断が多い:「この業者にはこう伝える」「この申請は先に口頭で一報を入れておく」といった、マニュアルの手順書には収まりきらないケースバイケースの勘所が業務の随所にある
  3. 引き継ぎ時間が確保されにくい:日々の業務に追われる中で、退職・異動の直前にまとめて引き継ごうとして時間切れになる。総務・庶務は「その場をしのぐ」ための緊急対応が多く、腰を据えた言語化の優先度が下がりがちだ

「裏技」は、そもそも書く発想にすらならない

もう一つ、総務・庶務特有の構造がある。正式な手順ではないという理由で、そもそもマニュアル化の対象から外れてしまうノウハウの存在だ。

あたま

研究の現場でも、まったく同じことが起きる。ある手続きで同じ失敗や停滞がずっと続いていたのに、詳しい人に一言聞いた途端、すぐに進み出したことがあった。あとで分かったのは、それが正規の手順書には載っていない「裏技的な進め方」だったということだ。

これは総務・庶務に限った話ではない。専門知識全般に共通する構造だ。「本来のやり方はこうだが、実務上はこうした方が早い・確実」という裏技的なノウハウは、それ自体が「正式なルートではない」という後ろめたさを伴うため、最初から文書化しようという発想にすらなりにくい。属人化ハブ記事で整理した6要因のうち「誤った諦め」(この業務は毎回違うからマニュアル化は不可能、という思い込み)は、実はこの「裏技だから書けない」という心理と地続きだ。総務・庶務では、こうした非公式のノウハウが業務全体に占める比率が他部署より高いぶん、この構造がより強く効いてくる。

属人化が起きているのは、担当者が意図的に情報を抱え込んでいるからではない。「これは書くようなことじゃない」という無自覚な線引きが、日々の判断の中に無数に埋め込まれているからだ。

これは「サイロ化」と同じ現象だ

視点を変えると、総務・庶務の属人化は、組織のナレッジマネジメントで語られる「サイロ化」現象の一種として捉え直せる。

領域ごとにノウハウが孤立する様子を示す図。総務の事務手続き・研究の実験手技・営業の交渉ノウハウという3つの円がそれぞれ内部に知識の断片を持ちながら、互いに点線(弱い接続)でしか繋がっていないことを表す。どの領域にも「聞けばすぐ進む」ノウハウは蓄積されているが、領域をまたいで接続されていないことが問題である、というキャプションを添える。

2024年の調査では、68%の組織がデータ・知識サイロを主要な課題として挙げているという結果が報告されている(Data Management誌)。組織のナレッジサイロは部門・チームが孤立して運営されることで生じるとされるが、これは部門単位だけでなく個人単位でも同じ構造で起きる。総務の事務手続き、研究の実験手技、営業の交渉ノウハウ。それぞれの領域には「聞けばすぐ進む」ノウハウが確かに蓄積されている。問題は知識が存在しないことではなく、その知識が領域をまたいで接続されていないことにある。

総務・庶務の属人化を「あの人にしか分からない」という個人の問題として捉えると、対策は「あの人に書いてもらう」で終わってしまう。しかしサイロ化という視点で捉え直すと、根本にあるのは「知識同士の依存関係が複雑化し、全体を把握できる人がいなくなる」という、より一般的な構造だと見えてくる。これは技術的負債の類比で知識蓄積を捉える「知識負債」という考え方とも重なる領域だ。個々のノウハウそのものより、ノウハウ同士のつながりが複雑化し、全体を把握できる人がいなくなること。それこそが、本当に対処すべき負債の正体である。

まとめ

総務・庶務の属人化が根深いのは、業務範囲の広さ・非定型判断の多さに加えて、「裏技的なノウハウはそもそも書く対象にならない」という見落とされがちな心理的な線引きが働いているからだ。そしてこれは個人の抱え込みの問題ではなく、組織のナレッジがサイロ化する現象と同じ構造を持つ。

属人化を解消する具体的な4層のアプローチ(標準化・人的な仕組み・制度設計・AI活用)は、属人化ハブ記事で詳しく扱っている。まずは自分の業務の中に「裏技だから書いていない」ノウハウがどれだけあるか、洗い出すところから始めてみてほしい。

あたま

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この記事を書いた人

本業で生成AIの活用法を研究し、実装・社内への導入推進を担当。属人化しがちなノウハウをどう言語化し、チームの資産にするかに関心があります。このラボでは、ナレッジ・生成AIツール・実践ワークフロー・データサイエンスの4領域で検証したことを記録しています。姉妹サイト「なないろ日和」では育児や暮らしについても書いています。

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